何十年か前、ここにはボウリング場が確かにあった。 ボウリングブームは一定周期で繰り返されてきたが、これは何回目のブームの頃だったか。 廃墟内には数々のラクガキが残るが、最高傑作はこの「わらびもち」他は印象に残らない。 レディースデー。レディに程遠い品格でも、女であればレディ。レディは国家資格にすべき。 場内は植物園状態。緑色の侵略者が殺風景という芸術を台無しにする。 近年、金属泥棒が廃墟から金気の物を盗み出すようになった。メタルシーフ。 どの廃墟でも比較的原型を留めるボイラー。廃墟の心臓。夢幻の心臓。 ビリヤード台も四つ球だ。最近の若いもんは四つ球を知らない。知らなくてもいいのだが。 丸い窓と垂れ下がる照明。廃墟美とは老醜の中に刻まれた年輪であり、絶望の詩である。 タトゥーを入れた老人が、皮と骨だけで終わるべき人生を語らずに語る。 植物は遠慮を知らないエイリアンだ。種子がどこからともなく運ばれ宿主に寄生する。 人類の理想郷は完全無菌の無機質空間であり、断じてエコ宗教に騙されてはならない。 なんでもないところに薄らボンヤリとした日の光が差す。人がそれを眺めて何かを考える。
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